回復期STよ、どこへ行く...!?
平成28年度セラピストマネジャーコース第2クールが終了した。今回も、前半3日間担当委員として参加した。同じくST委員として参加していた森ノ宮病院の椎名英貴さんは、遠い昔の養成校時代の同級生で、第2クールは椎名さんの「摂食嚥下障害」、私の「コミュニケーション論」、橋本圭司先生の「高次脳機能障害」等の講義が組まれ、ST色の濃い構成であった。第7期セラマネSTメンバー8名と椎名さんと私は、誰一人欠けることなく初日から交流会(飲み会!)を開催し、回復期ST談義に花を咲かせて大いに盛り上がった。
セラマネコースに参加するSTは、職種の比率以上に少なく、さらに回を追って減少傾向にあったため、「セラマネに参加するリーダーSTは、いなくなってしまうのか?」と不安を感じていたが、今年は全120名の参加者のうち8名まで回復し、また男性比率が8人中6人と高く、血気と頼もしさの漂う例年と少し趣の異なったSTチームであったため、STの今後の展開に希望が感じられた。
セラピスト5か条の記事に示したように、今回ST5か条作成に参加する機会をいただき、改めて「STとは何か」を考えた。その中で、STは嚥下や失語症などの極めて専門性の高い領域を持つ一方で、コミュニケーションに関わる職種という観点から、生活や人生まで広げて関わる職種、と考えるようになった。ST委員の議論で合意し、素案を公開したが、いただいている意見も概ねこの提案に好意を示していただいており、この方向でよいと考えていた。しかし、セラマネ終了後複数の人と意見交換する中で、ことはそれほど単純ではないのかもしれない、と考えるようになった。
「STは専門特化している職業」と認識しているPTやOTは、少なくない。患者全体を見渡す役割というよりは、チームの中でパーツとして存在している、というイメージを持たれている。そういう方からは、ST5か条について「違和感がある」「無理じゃないかと思う」と言われることがある。ST自身が、自分の役割をパーツだと思っている場合も少なくない。思っている、というより、そうするしかできない場合もある。また、STの業務は施設や個人による差がとても大きい。専門性に重きを置いてとらえているSTチームがある。STが狭い領域に特化した専門職か、広い視野で包括的に関わる専門職か、その答えは今はまだない、のかも知れない。
そのように考えながら、あえてST5か条は「今の案でいい」と思い直した。特化した専門性とコミュニケーションを軸にした包括性が、STの特徴である。どちらかではない。どちらかに偏りやすいのであれば、一方への意識を高め両極がSTの仕事であることを意識しよう。経験が浅く自分の領域をパーツでしか見られないのなら、精進して患者さんの全体像をみられるようになるように努力していこう。ST5か条は努力目標でもいい。しかし、この5か条を取り下げてはならない。
話は変わるが、セラマネコースで高次脳機能障害を含むコミュニケーションについて話をさせていただいて、3年になる。当初「PTも高次脳機能障害を理解しているべきである」と話すと、少なからず「?」という反応があり、話が通じないと感じることもあったが、年ごとにそういう感じが減少している。特に、「高次脳機能障害は、OTやSTが難しい用語を用いて記述して終わるものではなく、PTや看護師、介護士が日々感じる直観や実感をもとに、わかりやすい言葉で語り合うものだ」と話すと、共感を示してくれるPTの数が確実に増えている。
リハビリテーションにおいて、対応する領域を分業してしまうことは効率的であり合理的である。高次脳機能障害を見る職種を決め、他職種は余計なことは考えなくていい、という仕組みを作るほうが、経験の浅い層が多数を占める場合、現実的なやり方であるともいえる。しかし…。脳損傷患者のリハビリテーションにおいて、手、足、口、脳、などのように分割して評価しアプローチしていても、セラピストの専門性は向上しない。専門領域は限定していても適切にその障害をとらえ対処するために、患者さんの全体像を描けることが重要なのだ。効率的でなくても、合理的でなくても、力のあるセラピストを育成するために、パーツになってしまわないで欲しい。PTであっても、高次脳機能障害を含めた全体像をとらえられるようになってほしい。それが、いつの日か真の専門性に行きつける道だと思う。
P.S.今年度からセラマネコースの講義に加わった、作業療法士の澤俊二さんによる「生活の再構築と自立支援」の講義は、素晴らしかった。OTとして、患者さんに人生に寄り添う視点が貫かれながら、データに基づく科学的でありかつ具体的でわかりやすい話にあふれ、生活の再構築を考えさせられた。やっぱり、OTってすごい。ぜひぜひ来年もお願いします!
写真は、澤さんの講義終了後の記念写真(前列左より、椎名英貴ST委員、澤俊二さん(金城大学、作業療法学科教授)、宮田昌司日本訪問リハビリテーション協会会長、斉藤秀之POS委員長、後列左より、後藤伸介PT委員、私、小泉幸毅PT委員)