3年次研修のこと
当院では、リハビリテーション部門全体でPT・OT・ST共通研修を実施している。PT・OT・STに分かれた部門別研修は専門性向上を目的として行うが、共通研修はチームアプローチや連携力向上のため、と考えてきた。今年の3年次研修を終え、共通研修の意味について改めて考える機会となったので、振り返ってみたい。
共通研修は年次別に行い、年次の特徴を踏まえ必要な内容を取り入れて企画している。3年次スタッフには、毎年「専門性と連携を考える」をテーマに、ディスカッション主体の研修を行う。入職時、右も左をわからなかったセラピスト達も、3年目になるとだいぶしっかりしてくる。担当も普通に持てるし、カンファレンスで医師や多職種ともやり取りできる。3年次終了時に「一人前」として自立することを目標としており、その時期を目前に、己の専門性を振り返りながら、他職種連携の在り方を考えてもらうことが目的である。
前半は、PT・OT・STに分かれて職種別にディスカッションを行い、後半は職種混合のグループで連携について話し合う。同職種同士、まず徹底的に専門性に向き合うことを求める。当院は、セラピストは病棟配置で、病院をあげて相互乗り入れ型チームアプローチを推進しているため、どちらかというと専門性より連携に比重が傾く傾向がある。3年目にもなるとそれぞれのリハはある程度できるようになっていて、自分に対し「こんなもんでいいかな」という気持ちも芽生えてくる。自分たちの専門性はそんなに浅いものではないことを思い出し、「まだまだこんなもんではだめ」ということに気がついてもらうことも、この研修の大きな目的である。最後の講評で、部門主任からの言葉は「セラピストの真髄は専門性にあり」であった。若き専門職たちよ、長く厳しい道のりの先の、高き専門性の峰をいつの日か極めてほしい。
さて、今回の研修で私が得た有益な気づきは、「連携にランクがある」という示唆である。もちろんこれまでもそのようなことを感じていたのだが、今回3年次スタッフが連携を語る様子を間近で見て、セラピストがどのように成熟して連携力を深めていくのか、に気づきを得た。当院では入職以来、他職種を理解し、他職種と情報共有するように促す。最初は先輩に気後れし、話しかけることさえ負荷が高いが、勇気を出して声をかけることが、連携の第一歩である。それから、必要な情報を伝え合うことを学ぶ。例えば「今週外泊にいく」「介護保険の認定が下りた」などの情報を発信したり受信したりできるようになる。ここまでが、チーム連携の初歩段階である。専門性が不足していてもできる。次に、それぞれの職種の基本理解をもとに行動できるようになる。「こういうことは、どの職種に頼めばいいか」「誰と相談して進めるか」など職種をわきまえた的確なやり取りができるようになれば、連携力はだいぶ磨きがかかってくる。しかし、重要なことはここから先に待っている。
職種混合のディスカッションでセラピスト達は、屋外歩行の自立について議論を戦わせていた。「屋内歩行は自立したが、屋外歩行はまだ見守りが必要なため、自立に向けて屋外歩行練習をしている」というケースは多い。当院では、以前から屋外歩行リハが盛んであるが、今年度の診療報酬改定で、「リハ室以外の場所でのリハ」が正式に許可されたのはいいが、6単位までと明記されたことで、PT・OT・STがみんな屋外練習を行い、3単位を越えてしまわないように、STは屋外練習を控えるように指示を出していた。このことに、PTから猛然と噛みつかれた。屋外歩行が自立しない理由は複数ある。PTの視点、OTの視点、STの視点で屋外歩行を評価し、原因を議論すべきだ、とのことであった(汗)。
屋外歩行が自立しない原因が、筋力にあるのか、バランスにあるのか、耐久性にあるのか、注意低下にあるのか、左無視にあるのか、道順障害にあるのか。まず、それが評価されていなければならない。大概は複数の要因が絡んでおり、場合によっては運動機能と認知機能の双方の要因が絡むこともあるので、当然のことながら多職種合同の評価が必要となるだろう。自職種の持つ情報と他職種の持つ情報を組み合わせ、一回り深い、総合的な評価が可能になる。これこそが連携なのだ。真の連携とは専門性を確立したその上に、そびえ立つものなのだ。専門性が不十分な段階からも、連携は始まっていく。専門性を高めながら、連携も深まっていく。自職種の専門性と他職種の専門性を統合し、より高い知見を得ていくことが、究極の連携に違いない。このことに気づかせてもらった3年次研修であった。
それにしても、私と同期入社のPTたちの、高次脳機能障害に対する興味・理解の高さには舌を巻く。 話していて心地よく、頼もしく、嬉しくて涙が出そうである。別に私と同期だからという理由ではなく、CBA普及活動責任者の小林主任のリーダーシップの成果であり、委員の池田さん、伊藤さん、菱川さん、福尾さんをはじめとする、関係者の努力の賜物である。必ずや、この努力が当院を一回り大きくしてくれることだろう。