“しばらない医療”への取り組み
ご縁があり、森田秋子先生に臨床指導に来ていただきました。現場で直接、患者さまの評価・アプローチのご指導をいただいた後、多職種でのケースカンファレンスを行ったのですが、臨床を通して障害の捉え方や考え方、チームアプローチの実践方法を学ぶことができました。またご指導していただいた内容は、当院での職員教育の大きな柱となりました
森田先生のご指導を機に“しばらない医療”への取り組みを病院全体で力を入れて進めています。これは、森田先生が患者さまのインテーク面接を行っている際、以前の入院の記憶も曖昧な重度の認知症の患者さまが、「(ミトンで)縛られるので看護師さんが部屋に来るのが怖かった。」と話され、抑制に対する恐怖が鮮明に残っているのを目の当たりにして、その心の傷の深さにスタッフ全員が驚き、事の重大さに気付いたからです。森田先生のインテーク面接によって患者さまの隠れていた心に触れることが出来ました。
そもそも身体拘束は基本的人権や人間の尊厳を守ることを妨げる行為であることが問題とされています。最近の介護施設では行わないよう指導が進められていますが、多くの医療機関では依然として安全上やむを得ない行為とされているのが実情です。当院でも今回のような多職種が現場で患者さまの言葉の重みを感じるという機会がなければ、この問題への取り組みは遅くなっていたと思います。
その後、院長より病院全体の朝礼で身体拘束に対する病院の指針が示され、看護部長とリハ課長からも組織全体としての対応を踏まえた各部署での取り組みについて話がありました。その中で看護部長は、「今回の事例を通して、身体拘束が患者さまの身体だけでなく、心も縛るものであるということを痛感した」と話をされました。
業務の効率性・安全性も重視せざるを得ない日常診療の中で、私たちが向き合っているのは“人”であることを忘れず、セラピストである前にまず人として真摯に向き合わなければならないことにあらためて気付かされました。今後も、当院の医療、看護、リハビリの質の向上だけでなく、スタッフ各々が人として、また医療人として成長できるように進めていきたいと思います。今後もご指導の程よろしくお願いします。