リハビリテーション花の舎病院のこと
栃木県野木町にあるリハビリテーション花の舎病院とのお付き合いは、いつの間にか10年を超えた。国際医療福祉大学に勤務するころ、毎年たくさんの卒業生が就職し、その縁でST部門の指導に関わらせていただくようになった。ST学科8期生の平野絵美さんは、遠い昔の教え子で担任だった(ナ行とハ行の学生が私の担当だった)。学生時代のやんちゃガールは、今や見違えるほどの立派なリーダーSTである。発症間もない脳損傷のケース何百例に、これまで若いSTと一緒に関わらせていただいた。回復期リハ病棟の仕組みができた直後の時期であり、私自身ほんとうに勉強になった。
花の舎病院を含む医療法人友志会は、回復期リハ病院、老人保健施設、通所等の多施設を持ち、リハスタッフのローテーションを徹底して実施している。生活期施設での経験を経た中堅セラピストが再び回復期に戻り、しばしば一回り成長した姿を見せてくれるので、この仕組みは有効に機能していると思う。
最近はなかなかうかがえなくなったが、ときどき呼んでもらって臨床指導や勉強会を行う。久しぶりに伺った7月某日、失語症事例4例の方に関わらせていただいた。発症から間もない失語症者の認知機能の見極めは、いつになっても難しい。わけがわからないことを言って怒っているように見える人が、本人なりの理由があっていらいらしていることは少なくない。一方、はっきりとした理由があると思っていたが、不快から来る情動的反応や漠然とした不安が原因の場合も少なくない。どの程度理にかなった理由があるのかを、ていねいに探っていく。協調的に共感的に、本人の苦しさに寄り添いながら「何がどう納得できないのか」を探る。具体的な理由がなくただいらいらしている場合、具体的な理由はあるが十分に状況を理解できずに一方的に怒っている場合、十分理にかなった原因により苦しんでおられる場合…。その状況を突き止めることにより、認知機能の重症度がだんだんとみえてくる。失語症者の場合、発症後抑うつ症状を呈すことが少なくなく、認知機能の状態はより把握しにくくなる。本人のことを一番よくわかっている担当STと最近の出来事を確認しなから、何がわかっていて何がわかっていないのか、を突きとめていく。
終了後は今春入職したばかりの新人STに、回復期における認知機能の見方について講義を行う。みな、大変熱心だった。事後届いた講義の感想は、以下のとおり。
「高次脳機能について、神経心理のピラミッドを用いてわかりやすく説明してくださり、高次脳機能障害について理解を深める事ができました。特に、基盤的認知能力は様々な機能に影響を及ぼしており、どの基盤的認知が障害されているのか把握することが、患者様を理解し臨床に繋げていくのに必要であると学ぶ事ができました。」(ST斎藤成美)
「様々な障害の基盤には意識があり、患者さんの意識の状態を最初に確認しなくてはならないということがわかりました。そして、CBAをつけることにあたり、机上課題やST室場面ではわからない、患者さんの普段の生活に密着した問題点を見つけることができると思いました。また、CBAは患者さんの退院後の生活を考え、目標を決める上でも大切なものだと感じました。」(ST野澤朱莉)
「今日のCBAの講義を受けて、患者様の臨床をする中で大切にしなければいけないことに気づくことができました。感情・意識などの基礎的認知能力を臨床の場で意識することで、患者様に楽しく、達成感のあるリハビリを提供できると感じました。患者様の細かい仕草や言動を大切に見ていくことが、患者様やSTにとってとても重要であると実感しました。」(ST野澤典明)
平野さん、引き続き彼らの教育をお願いします。